文庫本6冊の長い物語だったが、4週ぐらいかけて読了した。
・ハッピーエンド
いきなり盛大なネタバレにはなるが、ハッピーエンドで綺麗に完結したところが私は好きだった。青豆、天吾の2人がどちらも命を落とすことなく、ラストを迎えられたことが嬉しく思った。今まで読んだ村上春樹の作品だと最後はバッドエンドに近いような終わり方だった。今作ももちろん本当の1984年に戻れたかは不明で、今後困難が待ち受けているかもしれないので一考の余地はあるが、2人が出会って愛し合っているのだからこれはハッピーエンドと言っていいだろう。BOOK1の始まりで入った1Q84の入り口から2人が揃って出ていく、王道な展開ではあるかもしれないが爽やかな読後感があった。
・第3の視点
BOOK3から青豆、天吾に加えて牛河の視点からも物語が展開される。これによって、新鮮さが保たれ読みやすくなっていると思った。青豆が動き回れず、自分の内側での葛藤が多くなるため、牛河の視点は物語を前に進めるために必須なのかもしれない。それでもこのまま最後まで青豆と天吾の2視点で語られると思っていたから驚いたし、良いアイディアだと思った。青年達の視点だけで語られていたため新しい中年おじさんの観点が加わることで最後まで読みやすかったと思う。
・孤独
孤独がこの物語の大きなテーマのひとつだと思う。天吾も青豆も青豆の友人の2人も、タマルもふかえりも、天吾の父親も牛河も、それぞれが色々な種類の孤独を抱えている。様々な孤独のそれぞれの葛藤を伝えること、そして青豆と天吾のようにそこから一歩を踏み出して欲しいというのが作者からのメッセージなんじゃないかと勝手に解釈する。
・殺人者
この本を読んでいて私が最後までモヤっとしてしまった点は、青豆は殺人者であるということだ。それも自己防衛でもなく意思を持って人を殺している。フィクションであり、話のノイズになるから削っているのかもしれないが、人の命を奪っているのにも関わらず、天吾と会うこと、幸せを掴むことだけを考えているように感じてしまった。終盤は特に。天吾は殺人者であっても青豆を愛せるのだろうか。それとも私が殺人ということを深く捉えすぎているのだろうか。人間なんて矛盾を抱えているものだし、そういうものかもしれない。それでもなんだかモヤモヤを感じてしまう。今すぐに結論は出そうにない。
上記以外にも小松、ふかえりを始め、魅力的なキャラクターが多く、面白い作品であった。